木曜日, 2月 26, 2026
ホーム調査レポートサービス付き高齢者向け住宅の「評価指標の開発」の試み―社会参加とコミュニケーションに焦点をあて、健康・ウェルビーイングとの関連を検証―

サービス付き高齢者向け住宅の「評価指標の開発」の試み―社会参加とコミュニケーションに焦点をあて、健康・ウェルビーイングとの関連を検証―

 千葉大学予防医学センターの王鶴群特任研究員、河口謙二郎特任助教、LINGLING特任研究員、井手一茂特任助教、中込敦士准教授、近藤克則特任教授の研究グループは、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の生活環境および提供されるサービスを多面的に評価するため、「サ高住評価指標」の開発を試み、その指標が健康・ウェルビーイング指標とどのように関連しているかを明らかにしました。

 分析の結果、月1回以上の社会参加(スポーツの会、趣味の会、学習・教養サークル、特技や経験を他者に伝える活動)、コミュニケーションと情報(1か月間交流する友人が10人以上、月1回以上笑う、月1回以上家族以外の人と話す)、住宅(自分の居室が良い)の8項目が「重要指標」として抽出されました。さらに、情緒的サポートの受領、趣味がある、年1回以上の共食、徒歩圏内に良い景観が多い、も評価指標として参考価値があると考えられました(表1)。本研究は、社会参加とコミュニケーションに焦点をあて、施設と入居者という二つの視点から、健康や幸福感(ウェルビーイング)との関係を検討した、日本初の探索的研究です。

 本研究成果は、2026年2月26日に日本公衆衛生雑誌にて公開されました。

表1 施設・個人の両面で健康・ウェルビーイング指標と有意な関連を示したサ高住評価指標と重要度分類

■研究の背景 

 健康寿命を延伸して高齢者の生活の質を向上させるためには、高齢者にやさしい都市環境の整備が必要です。世界保健機関(WHO)は「高齢者にやさしい都市・コミュニティ(Age-Friendly Cities and Communities: AFCC)」(注1)を推進しており、交通や社会参加など8つの領域の中でも「住宅」は重要な内容とされています(参考文献1)。

 日本でも高齢化の進行に伴い、高齢者が自立的かつ安心して暮らせる住まいが求められています。2011年に制度化された「サ高住」は、バリアフリー構造の住まいに加え、見守りや生活相談などのサービスを提供する新しい住まいの形として、その数は年々増加しています(参考文献2)。

 サ高住が提供するサービスの質を高めるには、住宅やサービスを客観的に評価する仕組みの構築が不可欠です。このような評価の枠組みは、行政の政策形成や運営事業者による運営改善に活用できるだけでなく、入居者がより良い住まいを選び、満足度を高めるためにも重要です。しかし、これまで日本国内では、サ高住のサービス内容や入居者の生活環境を体系的に評価する指標の開発に関する研究はほとんどありませんでした。また、どのような環境が、入居者の健康や幸福感と関連しているのかも十分な検証が行われていませんでした。

■研究成果のポイント

 本研究では、サ高住39施設を対象に、2023年2〜3月に実施したアンケート調査のデータを用いました。施設全体では見られる傾向が、入居者一人ひとりには当てはまらないことがあります。各評価指標が実際に入居者一人ひとりへの取り組みに役立つかどうかを検討するため、施設全体の傾向を見る分析に加えて、入居者個人にも着目し、施設レベルと入居者個人レベルの両面から、サ高住評価指標と健康・ウェルビーイング指標との関連を分析しました。分析対象は、施設レベルでは回答者が20人以上の25施設(883人、平均年齢83.7±6.5歳)、個人レベルでは65歳以上の入居者1,085人(平均年齢83.9±6.5歳)でした

 サ高住評価指標は、AFCCが示す8領域のうち、「社会参加」「コミュニケーションと情報」「屋外スペースと建物」「交通」「住宅」の5領域に該当する28項目を抽出して整理しました(表2)。健康指標として「うつ」「認知症リスク」「フレイル(虚弱)」の3項目を、ウェルビーイング指標として「幸福感」「生活満足度」など9項目を用いました(表2)。

表2 サ高住評価指標と健康・ウェルビーイング指標

 分析の結果、サ高住評価指標28項目のうち、半数にあたる14項目が、一つ以上の健康・ウェルビーイング指標と有意に保護的な関連があることが分かりました。各サ高住評価指標について、施設レベルと個人レベルでいくつの健康・ウェルビーイング指標と関連していたかを基準に、重要度を「重要」「参考」「限定」の3段階に分類しました(表1)。「重要」は関連指標数が10以上、「参考」は5以上10未満、「限定」は1以上5未満と定義しました。

 重要性が高い8指標は、月1回以上の社会参加(スポーツの会、趣味の会、学習・教養サークル、特技や経験を他者に伝える活動)、コミュニケーションと情報(1か月間交流する友人が10人以上、月1回以上笑う、月1回以上家族以外の人と話す)、住宅(自分の居室が良い)でした。また、コミュニケーションと情報(情緒的サポートの受領、趣味がある、年1回以上の共食)、屋外スペースと建物(徒歩圏内に景観が多い)といった4指標も、参考価値の高い評価項目であると考えられました。一方で、コミュニケーションと情報のうち、情緒的・手段的サポートの提供の2指標は、評価指標としての有用性は限定的である可能性が示唆されました。

■今後の展望

 本研究は、サ高住の質の評価や向上に役立つ可能性のある評価指標を提示した、日本で初めての試みです。今回得られた知見は、今後の政策立案や施設運営の改善にもつながる可能性を示しています。これにより、行政や事業者により質の高い運営支援を促すとともに、入居者の生活の質と満足度の一層の向上につなげていくことが期待されます。

 一方で、本研究は一時点のデータを用いた探索的な分析であることから、今後は追跡調査によって因果関係を検証するとともに、対象施設数を増やすことによる精緻な分析が求められます。さらに、物理的環境や安全性などの観点も取り入れた包括的な評価指標へと発展させ、運営主体の異なる施設でも再現性を確認することで、実践的に活用できる評価モデルの確立を目指します。

 

■用語解説

注1)高齢者にやさしい都市・コミュニティ(Age-Friendly Cities and Communities: AFCC):世界保健機関が提唱する概念で、「社会参加」「尊敬と社会的包摂」「地域社会の支援と保健サービス」「コミュニケーションと情報」「市民参加と雇用」「屋外スペースと建物」「交通」「住宅」の8領域から構成され、年齢や能力にかかわらず、自分らしい生活を送れる社会の実現を目指している。健康とウェルビーイングはその最終的な目標として位置づけられている。

■論文情報

タイトル:サービス付き高齢者向け住宅の評価指標の開発の試み:社会参加とコミュニケーションに焦点をあてて

著者:王鶴群、河口謙二郎、LINGLING、井手一茂、中込敦士、近藤克則

雑誌:日本公衆衛生雑誌

DOI:10.11236/jph.25-092

■研究プロジェクトについて

本研究は千葉大学予防医学センターと積水ハウスシャーメゾンPM東京株式会社との共同研究「シニア向け住宅における高齢者のウェルビーイングに寄与する要因の探索」に基づき実施したものです。

■参考文献

1)WHO “National programmes for age-friendly cities and communities: a guide”

URL:https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/366634/9789240068698-eng.pdf?sequence=1

2)一般社団法人高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅のご案内」

URL:https://www.satsuki-jutaku.mlit.go.jp/doc/panfu.pdf

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