—東京23区との比較で見えてきた構造的特徴—
中古マンション市場における価格の高騰は全国的に進行していますが、そのなかでも東京都23区に次いで強い上昇を示しているエリアが大阪市です。東京ほどの人口規模や経済集積を持たない都市が、なぜここまで急速に価格を押し上げているのか。今回は、東京との比較を軸に、大阪市の中古マンション市場にどのような特徴や傾向が見られるのかを詳しく調査しました。
1. 大阪市の中古マンション成約単価はなぜ急騰しているのか
グラフ1:大阪市中古マンション平均成約坪単価推移

大阪市の中古マンション成約坪単価は、もともと緩やかな上昇基調にありました。しかし、特に2020年中盤以降、その上昇が加速し現在に至るまで高騰が続いています。この動きは全国的に見ても特殊で、同じように顕著な上昇を示しているのは東京都23区のみです。
背景には、以下のようないくつかの要因が複合的に作用しています。
・都心回帰の再加速
コロナ禍を経て地方移住が注目されたものの、2021年頃から逆に利便性の高い都市部への需要が再集中。大阪では梅田・なんば・天王寺といった主要都心部に再び人気が集まりました。
・再開発プロジェクトの連続性
梅田エリアの大型再開発、うめきた2期、なんば周辺のリノベーション進行など、都市の価値を押し上げる要因が一段と増加。将来価値を見据えた買いが増えています。
・インフレ・建築費高騰による新築価格の押し上げ効果
新築マンション価格が上昇したことで、中古市場が相対的に割安に見える「価格代替効果」が生じ、中古価格を引き上げました。
これらの影響が重なり、大阪市の中古マンション市場は“第二の東京”とも言える強い価格上昇局面に突入しています。
2. 築年帯別に見る価格上昇の構造
次に、大阪市の中古マンションの築年帯別の平均成約坪単価の推移を見てみると、より特徴的な現象が読み取れます。
グラフ2:大阪市中古マンション築年帯別成約坪単価推移

最も大きく上昇しているのは 2006年以降の比較的新しい築年帯 です。折れ線グラフにすると明確ですが、2006年以降築は他の築年帯を大きく引き離し、右肩上がりの上昇トレンドが続いています。これは、耐震基準や設備グレードの向上、仕様のモダン化など、消費者の好みに合った物件が多いことに加え、新築竣工棟数が減少している為、相対的に築年の浅いマンションが減ってきている為です。
また2005年以前の築年帯も緩やかではありますが価格が堅調に上昇しており、大阪市全体に強い需要が広がっていることがうかがえます。
3. 成約件数の割合から見える「大阪市の異質性」
さらに築年帯別の成約件数の割合を見ていくと、大阪市市場がどれほど特異な構造を持っているかがより鮮明になります。
グラフ3:大阪市中古マンション築年帯別成約件数の割合

大阪市では、
・2006年以降築の成約件数の割合が年々増加
・2005年以前築の成約割合が減少
という傾向が続いています。これは「築年が浅い=グロス価格が高くなりやすい」ことを意味します。つまり、購入者の多くが高価格帯の比較的新しい物件を積極的に選んでいるということです。
この現象は、給与所得をベースとする一般的な実需層の購入構造とはやや異なり、投資・投機ニーズの流入が強まっている可能性を示唆しています。
4. なぜこれが異常なのか:首都圏近郊3県との比較
参考として、東京都に隣接する埼玉県・千葉県・神奈川県の中古マンション市場を見ると、まったく逆の現象が起きています。
グラフ4:首都圏(東京都を除く)マンション築年帯別成約件数の割合

これらのエリアでは、
・2006年以降築の成約件数が減少
・2005年以前築の割合が増加
というトレンドが続いています。
これは、築年の浅い物件の価格が上がりすぎ、給与水準に対して「買えない」状況が進んでいるため、比較的手の届きやすい中古の古い築年帯に実需がシフトしているためです。
つまり大阪市は東京周辺3県とは完全に逆の構造を示しているのです。
このことは、大阪市で築浅物件への需要が衰えず、むしろ存在感が増していることを示します。実需だけでなく、投資家の参入によって市場が押し上げられている可能性が高いと言えます。
5. 新築マンションの短期転売率から見る「投機化」の兆候
さらに重要なのが、新築マンションの短期転売(購入後1年以内の転売)割合です。
グラフ5:エリア別新築マンション短期転売の割合

東京都23区・大阪市・名古屋市のデータを比較すると、名古屋市は2025年時点でやや増加していますが、東京と大阪では2024年〜2025年にかけて 「激増」 しています。
・東京都23区:20%超え
・大阪市:14%に迫る高水準
短期での転売が増えるということは、「実需より投資・投機目的の購入者が増えている」ことの明確な証拠です。
ただし東京23区はもともと投資マネーの流入が激しい複合市場であり、実需・投資・投機が混在していることが一般的に知られています。
しかし、大阪市の場合は市場規模や価格帯の背景が異なり、もともと東京よりもキャップレート(利回り)が高く、相対的に割安と見られていたため、海外投資家・国内の投資筋にとって「買いやすい」 市場となっています。
6. 大阪市が今後「投資・投機の中心エリア」になり得る理由
以上を総合すると、大阪市の中古マンション市場は以下の特徴を持っています。
1. 東京23区に次ぐ急激な成約単価の上昇
2. 築浅物件(2006年以降)が特に強い価格上昇を示す
3. 築浅の成約割合が増加し続けるという異例の状況
4. 短期転売率が急増し、市場が「投資・投機化」している兆候が強い
5. 東京との価格差により割安感が投資資金を呼び込んでいる
つまり、大阪市はもはや単なる実需中心の市場ではなく、
「投資」と「投機」が大きく存在感を増しつつある成長マーケット
と言えます。
今後も価格が上昇する可能性は十分にありますが、一方で投資マネー頼みの市場はボラティリティ(価格変動)が大きくなるリスクも孕みます。東京都23区同様、価格変動に対する警戒や、市場状況を冷静に読み解く姿勢が求められる局面です。

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表研究員
早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。
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