日曜日, 12月 22, 2024
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建物内におけるドローン配送の有効性を数理モデルで解明

――高層マンションでの新たな垂直物流システムの構築――

発表のポイント

  • 高層マンションなどの建物内でドローンを使った新たな配送システムを提案。

  • 数理モデルを利用したシミュレーションにより、エレベーターでの配送と比べ、消費電力、待ち時間ともに有利になる条件を明らかにした。

  • ドローンとエレベーターを協調させた新たな建物内物流実現の可能性。

建物内におけるドローン配送の有効性を数理モデルで解明のサブ画像1_ドローンによる建物内垂直配送のイメージドローンによる建物内垂直配送のイメージ

概要

 東京大学先端科学技術研究センターの江崎貴裕特任講師、井村直人特任研究員、西成活裕教授、三井不動産株式会社の藤塚和弘氏らによる研究グループは、高層マンションなどの建物内にドローンが垂直飛行できる専用空間を設置した新たな配送システムを考案し、数理モデルによる分析を用いてその有効性を示しました。

 本研究は、待ち時間が長くなりがちなエレベーターでの配送に対する解決策となるだけでなく、災害時に消費電力を抑えて生活必需品の配送を行うなど、建物内の物流に有力な選択肢を与える可能性があります。本研究では基礎的なモデリングによる概念実証を実施しましたが、今後は実機を用いたさらなる検証につなげていきます。

 本成果は2024年5月16日に「Communications in Transportation Research」のオンライン版で公開されました。

―研究者からのひとこと―

ドローンの社会における活用の可能性は様々な形で検討が進んでいますが、現実の制約条件やコストなどが障害となり、取り組みが進まないこともしばしばです。本研究ではドローンを活用した配送の具体的なメリットとそれが生じるメカニズムについて詳細に調べましたが、こうした研究が新たな仕組みについて検討する足掛かりとなっていくことを期待しています。

(東京大学先端科学技術研究センター 江崎貴裕特任講師)

建物内におけるドローン配送の有効性を数理モデルで解明のサブ画像2

発表内容

 2022年12月にドローンの有人地帯における目視外飛行(レベル4飛行)が解禁されましたが、現状実現しているドローン配送は主に山間部や島嶼部での運用に限られています。東京大学と三井不動産は都心などの人口過密地域におけるドローン配送シーンを具体化することが重要と考え、エレベーターの代替となるような垂直の輸送システムの共同研究に取り組んでいます。高層マンションや高層オフィスビルでは、災害時にエレベーターが利用できなくなった際の物流インフラへの懸念や、また平時でも、増加する飲食ケータリングサービスや通販による宅配需要に対して、従来のエレベーターのみに頼った配送では期待される時間内にモノを届けられなくなるリスクが存在しています。本研究では、建物内にドローンが垂直飛行できる専用空間を用意し、各階に設置された垂直離着陸可能なポートで荷物の配送を行う仕組みを考案しました(特許出願済)。これが実現すれば、エレベーターによる配送と比べ迅速かつ省電力な配送が可能となります。

 加えて、本システムの有効性について分析を行なうため、荷物の脱着、上下飛行、バッテリーの交換などの配送プロセスを仮定し(図1)、実際の機体(PF2-AE Delivery;株式会社ACSL)の仕様を元に、現実に近い数理モデルを構築しました。そのうえで、仮想的な高層マンションの各家庭においてポワソン過程(注1)によって需要が生じると想定し、さまざまなドローンの台数に対して、配送のパフォーマンスを調べました。待ち行列理論(注2)に立脚した数理的な解析によって必要なドローンの台数などを求めることができたほか、モンテカルロ・シミュレーション(注3)によって一定の需要レベルまではエレベーターよりもドローンを活用した方が、早く、かつ少ない消費電力で配送が可能であることがわかりました(図2)。これにより、一定のシーンではドローンを活用するメリットが確かに存在することが示され、新たなビジネスモデルにつながることが期待されます。

 また、本研究で明らかになった「大量輸送が得意なエレベーター配送」と「個別の即時対応が得意なドローン」という二つの特性の異なる輸送モードを組み合わせることによって生じるメリットは、他のドローンを活用したマルチモーダル(多様な輸送手段を用いた)物流システムにも重要な示唆を与えます。

建物内におけるドローン配送の有効性を数理モデルで解明のサブ画像3_図1:ドローンによる垂直配送システムの概略図図1:ドローンによる垂直配送システムの概略図

建物内におけるドローン配送の有効性を数理モデルで解明のサブ画像4_図2:エレベーターと比較した際のドローン配送の有効性図2:エレベーターと比較した際のドローン配送の有効性

待ち時間及び消費電力の図(左・中)では、色が青に近づくほどドローンが有利であることを示す。例えば、1世帯時間当たりのリクエスト数が0.2件の状況でドローン5台を利用して配送すると、待ち時間で280秒、1配送当たりの消費電力で0.09kWhの削減となる。これらの状況をマップにまとめたのが右図。

発表者・研究者等情報

東京大学

 先端科学技術研究センター寄付研究部門先端物流科学

 江崎 貴裕 特任講師

 井村 直人 特任研究員

 西成 活裕 教授

  

三井不動産株式会社

 イノベーション推進本部 産学連携推進部

 藤塚 和弘

論文情報

雑誌名:Communications in Transportation Research

題 名:Drone-based vertical delivery system for high-rise buildings: Multiple drones vs. a single elevator

著者名: Takahiro Ezaki*, Kazuhiro Fujitsuka, Naoto Imura, and Katsuhiro Nishinari

*責任著者

DOI:10.1016/j.commtr.2024.100130

研究助成

本研究は、三井不動産東大ラボの支援により実施されました。

用語解説

(注1)ポワソン過程

時間や空間内で無作為に発生するイベントをモデル化するために用いられる確率過程。

(注2)待ち行列理論

サーバーに対するリクエストや窓口での顧客サービスなど、ランダムに発生する需要に対して、サービスを行う際に待ち時間や発生する行列の長さについて分析する数学の体系。

(注3)モンテカルロ・シミュレーション

計算機の中でランダムな値を発生させることにより確率的な現象をシミュレートする方法論の総称。

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