金曜日, 2月 20, 2026
ホーム商品サービス地方自治体の空き家相談を支えるAI相談支援の機能向上― 行政が安心して導入を検討できる設計と運用 ―

地方自治体の空き家相談を支えるAI相談支援の機能向上― 行政が安心して導入を検討できる設計と運用 ―

相談窓口への接続を目的とし、ハルシネーション抑制と回答制御を実装

地方自治体における空き家対策の理想像は、例えば次のような状態である。

  • 住民が問題を抱え込む前に、早期の相談へとつなげられること

  • 地域の制度や支援策を事前に把握したうえで、適切な窓口に至る環境を整えること

  • 限られた人員の中でも、本質的な判断支援に集中できる体制を構築すること

しかし現実には、こうした状態を実現するにはいくつもの構造的な壁が存在している。

こうした課題を踏まえ、本年度は昨年度実施した「空き家未来AIナビ」の実証結果を基に、行政が安心して導入を検討できる設計・運用体制へと発展させた。


空き家未来AIナビの主な更新点

  1. 回答制御の強化(話題によっては答えない・答えすぎない)

  2. ハルシネーションの抑制(学習データと回答の紐づきを強化)

  3. 複数自治体が基盤共有できる仕組み(運用コストの抑制)


地方自治体における空き家相談の構造的課題

地方自治体における空き家問題には、人口減少や市場性の低下、権利関係の複雑化など、さまざまな構造的課題が存在している。その中でも、特に所有者相談の段階においては、いくつかの共通した壁がある。

これらは住民側の課題であると同時に、行政にとっても対応の在り方を問われるテーマである。

  1. 相談の「ハードル」と「タイミング」の問題
    本来は相続発生前後や空き家化直後に相談につながることが望ましいが、実際には問題が深刻化してから初めて行政に連絡が入るケースが多い。心理的な負担や罪悪感、当事者意識の薄さが、早期相談を妨げている。

    その結果、行政としては予防的に関与できる段階で対応することが難しく、倒壊の危険や近隣からの苦情が顕在化した後の対応に多くの時間と労力を要する状況が生じやすい。早期相談が進まないことは、危険空き家対応や苦情処理など、結果として行政負担の増大につながる可能性もある。住民が問題を抱え込む前に、安心して相談へ踏み出せる環境を整えることは、行政がより本質的な意思決定支援や調整業務に集中できる体制を築く上でも重要である。

  2. 相談内容の多様性
    空き家の悩みは、相続、登記、税務、不動産、建築、残置物整理など複数分野にまたがる。その結果、相談者は「何から手を付ければよいか分からない」状態に陥りやすく、行政窓口にとっても一度の対応で全体像を整理することは容易ではない。

    担当部署が異なる制度や専門分野にまたがる内容を扱うことは、行政組織の構造上も負担となりやすい。住民があらかじめ自らの状況を整理し、論点を把握した上で相談に至ることができれば、行政は制度説明にとどまらず、より具体的な選択肢提示や合意形成支援に時間を割くことが可能となる。

  3. 相談内容を継続的に整理する仕組みが限られている
    多岐にわたる情報を一度の窓口対応で理解することは容易ではなく、相談者が十分に状況を整理しきれないまま手続きを進めるケースもある。結果として再相談や長期化につながる場合も少なくない。

    行政においても、継続的なフォロー体制を十分に確保することは、人員体制の制約上、容易ではない。

    こうした状況を踏まえると、単発的な窓口対応に依存するのではなく、相談に至る前段階から段階的に整理を促す仕組みを持つことが、対応の効率化と質の向上の両立につながる。

本取り組みの原点にある問題意識

本取り組みの背景には、地方の市町村において、空き家相談の選択肢そのものが限られているという現実への問題意識がある。地方では、都市部のような不動産の市場流通を期待しにくく、空き家が経済的価値を持たないまま放置されるケースも少なくない。

また、都市部への人口集中により、所有者が地域外に居住していることも多く、相続の状況によっては地域との関わりが希薄なまま管理されない状態が続くこともある。こうした状況は、不動産が資産ではなく「負動産」へと変化していく要因となっている。

一方で、空き家は早期に相談につながり、適切な活用が図られれば、新たな住まいや店舗、活動拠点として地域の資源になり得る存在でもある。その分岐点となるのが「早めの相談」である。

本取り組みは、単なる技術導入を目的として始まったものではない。
いんしゅう鹿野まちづくり協議会は、これまで各地の空き家利活用や相談体制づくりの立ち上げに関わり、行政担当者や地域団体とともに現場で課題解決に取り組んできた。その過程で、空き家相談が個別制度の問題ではなく、「相談に至るまでの構造」に課題があることを実感してきた。

とりわけ、制度を担う行政と、地域事情に精通し所有者に寄り添う地域団体とが十分に接続されないまま、それぞれが対応を迫られる場面も少なくない。地方の空き家問題に対応するには、いずれか一方だけで完結することは難しく、両者が役割を分担しながら連携する体制が不可欠である。

こうした現場での実践と連携の蓄積を踏まえ、本サービスは、相談構造そのものを補完し、行政と地域団体の協働を支える仕組みとして設計された。

設計にあたっては、既存の相談窓口への接続を前提とし、行政情報だけでなく地域団体や中間支援組織の情報も組み込んでいる。AIをブラックボックス化せず、現場の知見を反映しながら改善していく仕組みとすることで、行政担当者が内容を把握しやすい構造としている。

本サービスでは、空き家相談を「心理的段階」「論点整理段階」「接続段階」の三層構造として再整理している。

  1. 所有者の心理的ハードルを下げる段階
    行政窓口へ直接足を運ぶ前に、匿名かつ自分のペースで状況を整理できる機会を設けることで、「まだ困っていない」「何から始めればよいか分からない」という状態から一歩を踏み出すきっかけをつくる。

  2. 複雑な論点を段階的に整理する段階
    相続、登記、税務、活用、解体など多岐にわたる課題を一度に解決するのではなく、現在地を確認しながら整理することで、相談者自身が状況を理解できる状態を目指す。

  3. 既存の相談窓口へと接続する段階
    AIが結論を提示するのではなく、整理された情報をもとに、行政窓口や地域団体など適切な相談先へとつなぐことを最終的な目的としている。

これら三つの段階を成立させるためには、AIが「結論」を提示する存在ではなく、「検討材料」を整理し提示する存在であることが重要である。

特に市場価値が低い地方の空き家においては、所有者が経済的・心理的負担を抱えやすい。そのため、過度に売却や除却を促すのではなく、相談者の状況に寄り添いながら選択肢を整理する姿勢が求められる。

また、複雑な論点を段階的に整理するには、各自治体の制度や相談窓口情報を正確に反映し、根拠に基づいて提示できる設計が不可欠である。さらに、最終的に既存の相談窓口へ接続するためには、AIが判断主体とならず、人による意思決定を前提とした構造とする必要がある。

空き家未来AIナビは、行政と地域団体の協働を前提に、相談前段階を補完し、既存の相談窓口への接続を支える仕組みである。

これにより、行政窓口は初期的な情報整理や制度の入口説明に多くの時間を割くのではなく、個別事情に応じた判断支援や関係機関との調整といった、本来行政が担うべき役割により集中できる環境を整えることが可能となる。

行政が安心して導入を検討できる設計

本サービスは行政の相談対応を代替するものではなく、限られた人員体制の中で相談の質を維持・向上させるための補完的な基盤である。こうした設計思想を具体化するにあたり、今年度のバージョンアップでは、AIエージェントを活用した回答制御の強化に重点を置いた。

  1. 回答範囲の明確化
    政治的・宗教的な話題や、空き家と直接関係のない質問については回答を行わない設計とし、相談窓口として扱う上でリスクとなり得る領域をあらかじめ排除している。AIが広範に応答できることよりも、相談業務として扱える範囲に限定することを優先した。

  2. ハルシネーションの抑制
    学習データと回答の紐づけを強化し、あらかじめ整理された情報の範囲内で回答を行う構造を採用した。推測による回答生成を抑え、自治体が説明可能な水準を担保することを重視している。

  3. 学習データの階層化
    自治体ごとの制度や窓口情報を構造化して取り込むことで、複数自治体の情報を扱う場合でも情報が混在しにくい設計としている。

    これは回答精度の向上だけを目的としたものではない。地方の市町村においてAIを継続的に運用するには、個別に独立した仕組みを構築するのではなく、一定の基盤を共有しながら地域情報を管理できる形とすることが重要である。

    個別開発型では初期導入費や継続的な予算確保が課題となりやすいが、本モデルは基盤共有型とすることで導入・維持コストを抑制し、持続可能な運用を前提としている。

    その結果、
    ・複数自治体による周知連携の相乗効果
    ・個別開発に比べたコスト抑制
    を実現し、中小規模の市町村にとっても現実的な選択肢となることを目指している。

    AI導入を一部の大規模自治体に限られた取り組みとせず、中小規模の市町村にとっても検討可能な仕組みとすることを意図した設計である。

なお、本取り組みにおけるAIチャットボットの構築および運用にあたっては、都築電気株式会社が技術面の支援に加え、サービス企画および実証検証にも参画している。単なるシステム構築にとどまらず、行政現場での実装可能性や運用面を見据えた設計・検証を共同で行っている。本事業では、技術を前面に出すのではなく、地域課題に向き合う主体が安心して使い続けられる体制づくりを重視している。

本取り組みでは、空き家利活用に携わる実務者や研究者による検証も実施している。実際の相談を想定した試行の中で、相談内容が段階的に整理される点や、地域文脈を踏まえた回答設計について一定の評価を得た。今後も改善を重ねながら、相談支援ツールとしての精度向上を図っていく。

空き家未来AIナビは現在公開しており、実際に操作・体験することが可能である。空き家相談の構造を踏まえた設計を、具体的なやりとりを通じて確認できる。

導入の可否を前提とせず、まずは相談支援の一つの形として参照いただきたい。

あわせて、空き家活用に取り組む行政や地域団体が相互に情報交換や助言を行える場として「空き家のわネットワーク」の構築も進めている。AIによる一次的な情報整理と、人による相談対応や連携を組み合わせることで、地方の空き家問題に対する持続的な支援体制の構築を目指しており、活動概要は空き家未来AIナビホームページ内で公開している。

▼空き家未来AIナビ▼

https://www.akiyamirai.net/

今後は、本モデル事業で得られた知見をもとに、地方における空き家相談支援のあり方として、他地域への展開を視野に取り組みを進めていく。

空き家対策は単一の施策で解決するものではなく、行政、地域団体、専門家がそれぞれの役割を担いながら連携していく必要がある。本取り組みが、その接点を支える一つの選択肢となることを目指している。

【お問い合わせ先】

特定非営利活動法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会(担当:向井)
TEL:0857-84-1188
MAIL:info@shikano.org

または、WEBページ「導入を検討される方へ」よりお問い合わせください。

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