金曜日, 12月 26, 2025
ホーム調査レポート「金利のある世界」が直撃する湾岸マンション市場

「金利のある世界」が直撃する湾岸マンション市場

── 販売日数と値下げ回数から読み解く需給変化

約30年ぶりの高金利水準が不動産市場に与えるインパクト

日本銀行は12月19日に開催された金融政策決定会合において、政策金利を従来の0.50%から0.75%へ引き上げる決定を行いました。これは1995年以来、約30年ぶりとなる高水準であり、日本経済が本格的に「金利のある世界」へ移行したことを強く印象付ける出来事と言えます。

長らく超低金利環境に支えられてきた日本の不動産市場、とりわけ高額物件が集中する東京都心部や湾岸エリアにおいては、この金利上昇が購入需要にどのような影響を及ぼすのかが大きな注目点となっています。本稿では、東京都の中でも特に人気の高い湾岸エリアを対象に、金利上昇局面における中古マンション市場の変化をデータから読み解いていきます。

市場の需給を映す「販売日数」と「値下げ回数」という指標

以下のグラフでは、湾岸エリアの中古マンション市場における「販売日数」と「値下げ回数」の推移を示しています。

出典:福嶋総研

販売日数とは、物件が市場に出てから成約に至るまでに要した日数を指します。この期間が短いほど、購入希望者が多く、物件がスムーズに消化されている状態を意味します。反対に販売日数が長期化する場合、市場での競争力が低下している、あるいは購入需要が弱含んでいるサインと解釈されます。

一方、値下げ回数は、売主が当初設定した価格から何度価格調整を行ったかを示す指標です。値下げ回数が少ない市場では、売主が強気の価格設定を維持できている状態であり、需給バランスは売り手優位と考えられます。逆に値下げ回数が増加している局面では、売主側が購入者に歩み寄らざるを得ない状況にあることを示唆します。

この2つの指標を組み合わせて見ることで、市場の「実需の強さ」と「売主心理」を立体的に把握することが可能になります。

2024年9月を境に反転した湾岸エリアの需給環境

湾岸エリア全体の動向を見ると、「販売日数」「値下げ回数」ともに2024年9月を底として、その後は明確に上昇へ転じています。つまり、2024年9月までは購入需要が非常に強く、売主も価格交渉に応じる必要のない強気な市場環境が続いていたことが分かります。

しかし、2024年10月以降は状況が一変します。販売日数は徐々に延び始め、値下げ回数も増加傾向に転じており、購入需要の減速と売主心理の軟化が同時に進行している様子がうかがえます。これは短期的な季節要因だけでは説明しきれず、市場構造そのものに変化が生じ始めている可能性を示しています。

エリア別に見る需給変化の濃淡

湾岸エリアをより細かく見ると、「月島・晴海・勝どき」エリアと「有明・豊洲・東雲」エリアの間で、その影響の出方には明確な差が見られます。

出典:福嶋総研

特に「月島・晴海・勝どき」エリアでは、販売日数の伸び、値下げ回数の増加ともに顕著であり、需給の変化がより鮮明に表れています。このエリアはタワーマンション供給が集中し、直近数年間で価格が急激に上昇してきたエリアでもあります。そのため、金利上昇という外部環境の変化が、購入検討層の心理に直接的な影響を与えやすい構造となっています。

一方で、「有明・豊洲・東雲」エリアでは、同様の傾向は見られるものの、その変化は比較的緩やかです。価格水準や物件構成の違いが、金利上昇耐性の差として表れている可能性があります。

「金利のある世界」への転換点と市場の連動

注目すべきは、2024年9月というタイミングが、日本銀行が政策金利を0.25%へ引き上げ、「金利のある世界」という表現が広く使われるようになった時期と一致している点です。

実際、変動型住宅ローン金利は2024年7月以前までは平均して0.4%台後半で推移していましたが、2025年12月現在では0.8%台後半まで上昇しています。政策金利の引き上げが金融機関の貸出金利に波及し、住宅ローン金利が確実に上昇局面に入っていることは否定できません。

今後、政策金利がさらに引き上げられる可能性を考慮すると、住宅ローン金利も一段の上昇が想定され、購入者にとっての資金調達環境はこれまで以上に厳しくなることが予想されます。

急騰した価格水準がもたらす家計負担の増大

湾岸エリア、とりわけ「月島・晴海・勝どき」エリアは、東京都内でも屈指の価格上昇を経験してきたエリアです。物件価格の上昇に加え、金利上昇による月々の返済額増加が重なることで、居住目的の新規購入者にとっての家計負担は一層大きなものとなります。

これまでであれば「低金利だからこそ成り立っていた価格帯」が、金利上昇によって現実的でなくなるケースも増えていくでしょう。その結果、購入を見送る層や、より価格帯の低いエリアへ検討先を移す動きが徐々に広がっていく可能性があります。

今後の湾岸エリア市場をどう見るか

現時点では、湾岸エリアの中古マンション市場が急激に崩れる兆しは見られません。しかし、販売日数の延伸や値下げ回数の増加といったデータは、明らかに「需給のピークアウト」を示唆しています。

今後は、金利動向を注視しながら、エリアや物件ごとの二極化がさらに進む局面に入ると考えられます。湾岸エリアにおいても、「どこでも売れる時代」から「選別される時代」へと移行しつつあり、購入者・売主ともに、これまで以上に冷静な判断が求められる局面を迎えていると言えるでしょう。

福嶋 真司(ふくしましんじ)

マンションリサーチ株式会社

データ事業開発室 

不動産データ分析責任者

福嶋総研

代表研究員

早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、

建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。

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所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階

設立年月日: 2011年4月

資本金 : 1億円

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