建設×住宅DXで「危険作業ゼロ」へ
国立大学法人電気通信大学(学長 田野俊一、以下「電気通信大学」)、大末建設株式会社(代表取締役社長 村尾和則、以下「大末建設」)およびミサワホーム株式会社(代表取締役社長執行役員 作尾徹也、以下「ミサワホーム」)は、戸建住宅の床下を点検する作業員の身体的負担の軽減と安全性向上、労働環境の改善ならびに作業効率化を目的として、床下点検ヘビ型ロボット(以下、「本ロボット」)の技術開発を進めてきました。
このたび、本ロボットが実用化段階に移行したことをお知らせいたします。

■開発の背景と本ロボットの必要性
住まいの点検・維持管理の現場では、人手不足や点検作業員の高齢化が課題となる中、電気配線や給排水配管が複雑に交差する建物の地下ピットや戸建住宅の床下での水漏れ・シロアリ被害・劣化兆候を早期に発見するための定期点検において、その安全性と快適性を長期的に確保することが欠かせません。特に、地下ピットでは基礎内部をつなぐ「人通口」を点検作業員が移動する必要があることに加え、長時間にわたるうつ伏せ姿勢での作業など、安全面でのリスクが伴います。また、戸建住宅では、配管経路が図面化されていない場合も多く、事前の状態把握が難しいことから、点検作業員にとって安全面・作業面での負担が大きいのが現状です。こうした背景から、点検作業を代行し、安全かつ効率的に状況を把握できるロボットの活用が求められてきました。
■開発体制と経緯
本ロボットのベースとなるロボットは、2022年9月に電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻の田中基康教授(以下、「田中教授」)と大末建設が共同で開発※1し、2023年度より大末建設の建設現場の地下ピット点検に導入されています。その後、戸建・賃貸住宅での活用を視野にミサワホームが参画し、3者連携体制を構築しました。本開発は、田中教授の最先端ロボティクス技術と、大末建設ならびにミサワホームの住宅建設・維持管理の知見を融合した、信頼性の高い産学連携体制のもとで推進されています。
■本ロボットの主な特長と進化
本ロボットは、アオダイショウが家の守り神とされてきたことを象徴し、戸建住宅の床下点検を安全に行う守護者としての役割を込め、「ユカダイショウ™」と名付けました。躯体には多連結移動構造を採用し、先行技術※1では建物の地下ピット向けに、二次元巡回と三次元障害物乗り越え機能を併せ持つ自律走行アルゴリズムを搭載していました。
今回、より狭隘な一般家屋の床下への対応を見据え、先行技術を基盤に遠隔操縦型へ転換したことで大幅な小型・軽量化を実現。さらに配管などの障害物を半自動で乗り越える動作機能や本体高さ150㎜の薄型設計により、配管下の通過にも対応するなど、床下環境への適応力を一段と高めています。

■今後の展望と貢献
本ロボットは、危険で過酷な点検作業の代替により、点検作業員の作業負担の軽減と安全性の向上、点検品質の安定化に貢献します。今後も3者が連携し、さらなる活用領域の拡大や技術検証を進めることで、建設・住宅業界における働き方改革と点検品質の向上に寄与してまいります。
※1:参考リリース:https://www.uec.ac.jp/about/publicity/news_release/2022/pdf/20220926_4817.pdf
■床下点検ヘビ型ロボット「ユカダイショウ™」の特長
1. 狭小空間・高さの異なる配管に対応
・従来機に比べ大幅に小型化(高さ40%・横幅25%・長さ30%削減)し、狭い空間をスムーズに通過可能
・頭部を挙上させることで、配管などの障害物(約400㎜まで)に対応
・多連結構造により曲がり角や段差の安定走行を実現
2. 半自動で障害物を乗り越える動作機能(特許登録済※2)
・点検員1名による遠隔操作で配管などの障害物に対応可能
・半自動乗り越え機能により、乗り越え成功率は100%※3(先行技術は88%)
・視覚的な判断を補助する操縦支援インターフェース※4を採用
・ゲームコントローラーによる直観的操作環境を提供
・横転や障害物への引っかかりなどの異常状態からも容易に復帰
3.自己位置推定およびカメラによる点検の実現
・前面センサー(LiDAR)を使用
・センサーと事前に読み込ませた図面を連動させることで、基礎内部でも自己位置の推定が可能

これらの特長により、基礎クラックやシロアリ被害の有無、配管からの水漏れ、硫酸塩結晶による基礎劣化など、多岐にわたる戸建住宅の劣化診断が可能となります。今後は、賃貸住宅の床下点検やリフォーム時の点検営業、さらには災害時の迅速な点検など、幅広い住宅維持管理分野への展開・導入を目指し、研究開発を進めてまいります。
※2:「障害物を乗り越える移動体、移動体の制御方法、移動体を制御するシステム、及び移動体を制御するプログラム」(特願2025-050930)
※3:被験者5名が先行技術と本発明をそれぞれ3回成功するまでの試行(配管高さ250㎜、直線上のコースを走行)
※4:カメラ映像に目印となる直線を合成し、配管上端と線を合わせる
■ヘビ型ロボットの専門家 田中基康教授が技術を監修
国立大学法人 電気通信大学 大学院 情報理工学研究科
教授 田中 基康(たなか もとやす)
2009年電気通信大学大学院電気通信学研究科 博士後期課程を修了。博士(工学)。同年キヤノン株式会社に勤務。2012年より電気通信大学 大学院情報理工学研究科助教、2017年より同准教授、2020年より同教授となり、現在に至る。主に、ヘビ型ロボットの研究に従事している。

狭所点検における「人とロボットの協働」という新しいアプローチ(田中教授コメント)
「床下点検のような狭く複雑な空間では、ロボットは『小型であること』が何より重要です。しかし、自律移動型ロボットは多くのセンサーや大容量バッテリーを必要とするため大型化しがちで、結果として狭い空間での運用が難しいという課題がありました。そこで私たちは、操縦者とロボットが協力する遠隔操縦システムを採用し、搭載機器を最小限に抑えることで、細長く柔軟なヘビ型ならではの形状と機動性を確保しています。
また、俯瞰視点カメラを用いた操作インターフェースや、障害物を半自動で乗り越える機能、自己位置推定機能などにより、操作時の難しさを技術的にサポートしています。人間が得意とする環境認識と大まかな動作指示は人が行い、モーター制御などの細かい動作はロボットが補助することで、扱いやすさと実用性を両立しました。
このロボットにより、点検作業者が床下に潜る必要が減り、安全性の確保や身体的負担の軽減、省人化が期待できます。さらに、日常的な点検が容易になることで、戸建住宅などの劣化予防や災害リスクの低減にも寄与します。
今後は、シーズ研究として『ヘビ型ロボットでできること&行ける場所』を広げる取り組みを継続し、住宅分野にとどまらず、インフラ点検や防災支援など、未来社会のニーズに応えうる技術基盤の強化を目指していきます。」
■床下点検ヘビ型ロボット「ユカダイショウ™」仕様概要※5
名 称:床下点検ヘビ型ロボット「ユカダイショウ™」
寸 法:長さ約1,150㎜、幅150㎜、高さ150㎜
重 量:約7.2kg(バッテリー含む)
対応可能高さ:障害物(配管など)高さ約400㎜程度まで対応可能
駆動方式:バッテリー仕様(Minshi製充電バッテリ22.2V 1.8Ah 2個)
車輪駆動(連節部各々が駆動)
走行速度:最速250㎜/s(操縦用ゲームパッドにて減速可能)
旋回半径:約250㎜
起動速度:約60秒(起動後、約20秒で点検開始可能)
搭載機材:可動域パンチルト全方位360度カメラ、駆動制御用PC搭載
通信方式:WiFi通信(現場の無線環境に依存)
動作時間:約70分(連続稼働時間)
充電速度:約50分
※5:当リリース内の仕様は現時点のものであり、変更される場合があります