― 港区マンションを対象に実データで検証 ―

マンションリサーチ株式会社(本社:東京都千代田区 代表取締役社長:山田 力)が運営する福嶋総研(代表研究員:福嶋 真司)にて中古マンション取引における「心理的瑕疵」が市場価格へ与える影響について、独自データを用いた分析結果を公表しました。
【1】心理的瑕疵物件は値下がりするという一般的イメージ
中古マンション市場では、「心理的瑕疵がある物件は価格が下がりやすい」という話を頻繁に耳にします。心理的瑕疵物件とは、居住者が心理的負担や嫌悪感を抱くような事象(自殺・他殺・孤独死・事故死など)が発生した物件のことを指します。一般的には購入希望者の敬遠につながりやすく、売却時には価格を抑えて売り出す必要があるというイメージが強くあります。
しかし、こうした心理的瑕疵が 同一マンション内の別住戸の価格にまで影響するのか という点については、これまで十分な検証が行われてきませんでした。市場では「同じマンションで事故があると全体の価値が下がるのでは」と語られるものの、実際にデータで裏付けた例は多くありません。そこで今回、港区の中古マンションを対象に、心理的瑕疵が発生した後、他住戸の価格推移に影響があるのかを検証しました。
【2】調査方法:心理的瑕疵発生前後の4年間を比較
調査は、心理的瑕疵の発生したマンションを複数選定し、 「事由発生日の1年前~発生後3年」 の売買価格の推移を比較する形で実施しました。対象マンションは、2009年から2021年にかけて港区内で心理的瑕疵が発生した中古マンションで、築年数や立地条件が異なる複数棟(調査棟数:20棟)を抽出しています。
調査に際しては、心理的瑕疵があった住戸そのものではなく、同一マンション内の別住戸の成約価格のみ に注目しました。また、心理的瑕疵の発生後に、売出件数が急増するかどうかも確認しました。もし瑕疵がマンション全体の資産価値を損なうなら、所有者の売却行動にも変化が生じる可能性があるためです。
【3】調査結果:マンション全体の価格は下がらない傾向
結論として、心理的瑕疵が発生しても 同一マンション内の別住戸の価格が下がるとは言えない ことが分かりました。調査対象マンションの中で、心理的瑕疵発生前後に価格が下落傾向を示したのは わずか2棟のみ でした。さらに、この2棟はいずれも1975年以前の築古マンションであり、そもそも老朽化や商品性の低下による価格下落が起きやすいカテゴリに属していました。つまり、心理的瑕疵による下落というよりも、マンション自体の築年特性が影響した可能性が高いと言えます。
【4】港区の市況背景:上昇トレンドが影響を相殺
2009年から2021年の港区中古マンション市場は、都心回帰の進行、投資需要の増加、歴史的な低金利の追い風を受け、強い上昇基調が続いた時期でした。この市況環境によって、心理的瑕疵という一つのネガティブ要因は相対的に小さくなり、マンション全体の価格はむしろ相場の影響を強く受けて上昇しました。
調査対象マンションの大半も、港区全体の平均価格上昇率と同程度の伸びを示しており、心理的瑕疵が「価格を上げにくくした」という傾向も見られませんでした。
さらに、売出件数についても、心理的瑕疵発生時のみ不自然に増えるといった動きはありませんでした。もしマンション全体の価値が毀損されていれば、複数の所有者が売却に動き売出件数が増える可能性がありますが、そのような兆候は確認できませんでした。
【5】考察:心理的瑕疵の影響は「発生した住戸」に限定される
これらの結果を総合的に分析すると、心理的瑕疵の影響は マンション全体の資産価値に及ぶほど強いものではない と考えられます。心理的瑕疵の対象住戸は買い手から敬遠されやすいものの、マンション内の他住戸までは影響が及びにくく、特に需要の強い都心エリアでは市場相場に吸収される傾向が強いといえます。
もちろん、心理的瑕疵の内容や報道の影響力、SNSによる情報拡散が大きかった場合など、特異なケースではマンション全体に影響が出る可能性を完全には否定できません。しかし、少なくとも今回の港区を対象とした実データでは、そうした傾向は確認されませんでした。
【6】まとめ:心理的瑕疵の影響範囲は限定的
今回の調査から、心理的瑕疵によって資産性が影響を受けるのは、「心理的瑕疵が発生した当該住戸」 に限定されると結論づけられます。同じマンション内だからといって、他の住戸まで価格が下がるとは言えず、特に港区のような強い需要を持つエリアでは、相場要因の影響が心理的瑕疵を上回るケースが多いことが確認できました。今後、他エリアについても同様の調査を進めて参ります。

筆者プロフィール
福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表研究員
早稲田大学理工学部卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。
また大手メディア・学術機関等にもデータ及び分析結果を提供する。
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会社名: マンションリサーチ株式会社
代表取締役社長: 山田力
所在地: 東京都千代田区神田美土代町5-2 第2日成ビル5階
設立年月日: 2011年4月
資本金 : 1億円